当時の私たちは、中学受験を専門とした塾があるのを、パソコンで検索してみて初めて知りました。
今までまったく気にも留めていなかった、月曜日の新聞のチラシは「情報の宝庫」となっていました。
結局のところ、夫の友人の息子さんが通っていたことで聞き覚えのあった、関西では最大手の塾で、自宅から比較的便利に通える教室に、小学2年の長男、陶真(とうま)を通わせようと決めました。
ある日曜日の約束の時間に、家族4人でその教室へ訪ねると、優しそうでお兄さんのような先生が、にこやかに現れました。
「ではまず、入塾テストを受けていただきましょう」「え?どういうこと?聞いてないんやけど」とも言えないまま、陶真はそれを受けることになりました。
陶真が入塾テストを別室で受けているあいだ、塾について説明している先生のお話が、何ひとつ頭に入ってきませんでした。
そのとき、聞こえていたのは「こんなことなら少しでも勉強させておけばよかった」という私の中の後悔の声だけでした。
嫌な予感が的中し「残念ながら、今回は…」と持ち込まれた結果を伝えて、先生は出て行きました。
夫「入塾テストぐらい、受からなどうすんねん?」
私「何も勉強してきてないから、しょうがないやん!」
しばらくのあいだ、夫と私は言葉もないまま待っていると、陶真を連れて先生が戻ってきました。
何の考えも浮かばずにいた私たちに、先生はある提案をしました。
「次回の短期講習を受けてみませんか?」「え?」
「その講習のあとに入塾テストがありますので、ぜひそれを受けてください」と、先生が陶真の頭をそっと撫でました。
その言葉にひとすじの光がさす気がした私は「はい、よろしくお願いします」と即答していました。
そうだ!それに受かればいいんだ!あきらめなくていいんだ!
こうなったら何がなんでも陶真をこの塾に通わせるんだ!という気持ちになっていました。
入塾テストの結果は…「合格!」
「短期講習」は冬休みの2日間で、国語と算数の講座という内容でした。
最終日、テストの結果がわかるまで、落ち着かずに廊下で待っていると「陶真くん合格です。よく頑張りましたね。2月から始まる新3年生のクラスにお越しください」
夫は「やったやんけ!」と満面の笑みで、陶真の肩に手を置くと、ポンとたたきました。
照れたような笑顔の陶真を見て、私の緊張も一気にほぐれました。
その様子にホッとしたのもつかの間、今度は私がパートの面接に「合格」する番です。
陶真の塾代、私が何とかするぞ!と気合いを新たにしました。
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