涼佑は、1年生から週3回の運動部の部活動に参加していました。
部活に入部した当初から、みんな仲が良く、和気あいあいとしていて、学校以外でも、彼らとでかけることが多くなりました。
私立中学は、地元の公立中学とは違い、ほとんどの同級生が涼佑と同じく「一からのお友だち関係の始まり」でもありました。
成績が上がることの気分の良さより、お友だちと分かち合う共に過ごす時間の楽しさの方を、今の涼佑はとくに優先しているようでした。
良い学習環境も大切ですが、良いお友だち関係を保つことは、それ以上に大事に思えました。
部活の中でもより親しくしているのが、お父さんが大手企業にヘッドハンティングされるほど優秀なサラリーマンの田上くん、大手企業で海外勤務中のサラリーマンの父を持つ佐伯くん、同区に住むお父さんが公務員の植沼くんでした。
彼らの同級生との関わりかたは、中学生とは思えないほど、良識的で、友好的で、大事に育てられるのが自然とこちらへ伝わるほどでした。
彼らは、恵まれた生活の中で、不自由なく育ち、尊敬に値するであろう大人の中で、自分自身の目標が育まれ、これから先の未来もよほどのことがない限り、優秀なままで人生を生き抜いていく、私はそう感じました。
「蛙の子は蛙」という言葉がなぜか頭の中でぐるぐるとまわっていました。環境って大事なんだと。
わが子たちだって、今からでも、きっと遅くないはず。
わが子たちに私立中学を選択肢のひとつに加えたことで、わが子たちの未来の選択肢が何倍にも増えていく気がして、今となっては、計り知れないことですが、公立中学に通っていたら、わが子たちの未来は…と思うと、無茶ぶりとも取れる中学受験を切り出した、あの時の夫にあらためて感謝することになりました。
私の通っていた公立中学は、地元では、特に悪名高き学校でした。
悪の道へのハードルはこの上なく低くて「あのまじめな明夫くんが長らんにリーゼント⁈」「あの控えめな道江ちゃんが金髪でぺたんこのカバン⁈」などを目にするたびに後味の悪い気分になりましたが、そのうちにだんだんとそんな彼らの変化を見過ごしていられる自分になっていました。
その道は、何かちょっとしたきっかけで、いつでもだれもがいくことができるほど日常的なものだったからでした。
そしてそれは多感だったその頃の私にとって、ある種のあこがれでもあり、かっこよくもあり、楽しそうでもあり、好奇心という名のもとに、一度は足を踏み入れてみたい道でもありました。
ありきたりな家庭の普通の私がそう思ったのであれば、きっとわが子たちも同じようにそう思うことがあるはずでした。
例えば、仲の良い同級生と険悪になった、成績が思うように上がらない、思春期ならではの親との対立などの心の揺らぎから、つい足を踏み入れてみたくなるような…。
私からすれば、公立中学は、常にそういった危うさをはらんでいるところでした。
あのまじめな明夫くんが公立中学でなかったら…。あの控えめな道江ちゃんが私立中学だったら…。
環境によって出会う人も変わり、それによって進む未来も変わっていく。
少なくとも親である私たちにできることは、できる限り良い環境をわが子たちへ与えてあげること。
【2年生の涼佑】
4月―校外学習
5月―①定期考査
6月―合唱コンクール
7月―②定期考査、サマーキャンプ
8月―夏期特別授業
10月―③定期考査、体育祭、海外研修旅行
涼佑が小学生のときに、子供の旅行代金が半額というのに乗っかった私たちは、4度の海外旅行を経験。
幼いわが子たちが、言語の違い、文化の違いを五感で感じたこと、そして日本ではあり得ない予想外のできごとを、家族で一緒に体験できたことは、子どもたちにとっての成長の糧にいつか必ずなるはずでした。
陶真の私立中学ではおおよそ8割強、涼佑のところでも7割から8割くらいの同級生が、何らかの形で海外への渡航経験がありました。
多くの同級生と同じように小学生のときに海外旅行を経験していたことで、涼佑も精神的な余裕を持ってこの研修旅行に臨めていました。
11月―芸術鑑賞会
12月―④定期考査、冬期特別授業、レシテーションコンテスト
1月―書初め
2月―⑤定期考査、ウインターキャンプ
私立中学は土曜日も授業があり、同級生と過ごす時間がどんどん増えていきました。
研修旅行や夏冬のキャンプで、寝食を共にし、ますます同級生とのつながりが広がると同時に深くなっていきました。
学生生活においては、とても充実しているのを感じていました。
その一方で、成績の方はこのままで大丈夫なのかと思うくらいに上がらずにいました。(私立中学の場合、模試や定期テストで学年とクラスでの順位を常に保護者も確認できる)
中学受験の入試のときは、ほぼ平均くらいの成績でしたが、中1生からは下位から1/4くらいの順位を行ったり来たりしていました。
個別懇談のときに、そのことについて担任の先生に聞いてみると、女子生徒の大半が、自分を律しコツコツと毎日欠かさず勉強するのに対して、男子生徒は、大学受験が近づくにつれ目標に向かって集中力を一気に高めていくという生徒が圧倒的に多いらしく、とりあえず今はその言葉と涼佑がそうであることを信じて待つしかないと思いました。
それを聞いた帰り道に、夫は「高い授業料払ってんのに、すぐにでも成績上がらんてどういうことやねん⁈」と毒づいたのを最後に、半信半疑な気持ちの矛先をどこに向けたらいいのかわからないかのように、黙ってしまいました。
この頃は、平均並みといえる収入の私たちにとって、高い授業料と引き換えにしてまで手に入れられる対価が、はたして本当にここにあるのか?という疑念を持たずにはいられませんでした。
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